貧血、骨折、無月経、駅伝やフィギュアに懸ける女性たちが感動的な理由
青春や人生を懸ける女性たち
実際、この問題には競技の宿命的特性が絡んでいる。駅伝経験者の知人女性は以前、こう言っていた。
「筋力さえ維持できてれば、軽ければ軽いほど速く走れちゃうんですよね。特に、女子は」
それゆえ、大多数の女子選手は減量もしくは低体重をキープすることで記録を高めようとする。しかも、激しい運動で汗も流すから、鉄分が不足しがちとなり、貧血にもなりやすい。が、食事で鉄分だけを摂取するのは困難だ。その点、鉄剤注射なら痩せたままで貧血状態を解消することができるのである。
そんな「魔法の薬」を手放すのは、指導者にとっても選手にとっても惜しいことだろう。リスクを承知で、短期での即効性を求め、手を出すケースは今後もなくならないかもしれない。
そのためか、高校駅伝の中継の最後には、解説者で元トップ選手の鯉川なつえが踏み込んだ発言をした。「誤った鉄剤使用」は「誤った体重管理」に起因するとして「指導者によるハラスメント」とまで言い切り、BMIが低すぎるチームへの栄養指導にまで言及したのだ。
ただ、ネットでは「BMIで判断するのがそもそも間違いでは?」という声も見かけたし、低すぎるBMIの目安を「17.5以下」としていたことに対し「自分は16.5以下で走れていた」と違和感を示した元選手もいた。
たしかに、女子陸上長距離の世界では16台や15台のBMIで活躍する選手も珍しくない。松野明美などは、15以下で五輪に出場した。今回の鉄剤問題で、BMIが低すぎる選手やチームへの出場制限を設けたらどうか、という意見も目にしたが、それこそ一種のハラスメントである。
そういえば昨年、愛媛新聞にドキュメントが掲載された実業団選手も高校時代には「167とか168センチの身長で44キロあたり」という15台のBMIをノルマにしていたという。「修学旅行ではアイスクリームを美味しそうに食べていたクラスメイトに気を使わせないように、そっとその場から離れた」という涙ぐましいエピソードも紹介されており、その甲斐あって、高校駅伝にも出場した。
しかし、この選手はその後、大学や実業団で何度も疲労骨折に見舞われている。女性の骨量獲得には身長の伸びが止まってからの1、2年が最も重要らしいので、高校時代のストイックな生活が影響した可能性は否めない。それでも彼女は、犠牲と引き換えに夢をかなえたといえる。
そう、夢と犠牲とは切っても切れないものなのだ。それを実感させてくれるのがスポーツ、とりわけ陸上長距離やフィギュアスケートといった競技の女性たちである。なぜなら、彼女たちはともすれば身体的成熟が妨げになるという宿命とも戦っている。脂肪がつき、体重が増えるという、女性としての健康な変化を二の次にしても、速く走り、美しく跳ぶことに懸けているのである。
KEYWORDS:
『痩せ姫 生きづらさの果てに』
エフ=宝泉薫 (著)
女性が「細さ」にこだわる本当の理由とは?
人類の進化のスピードより、ずっと速く進んでしまう時代に命がけで追いすがる「未来のイヴ」たちの記憶
————中野信子(脳科学者・医学博士)推薦
瘦せることがすべて、そんな生き方もあっていい。居場所なき少数派のためのサンクチュアリがここにある。
健康至上主義的現代の奇書にして、食と性が大混乱をきたした新たな時代のバイブル。
摂食障害。この病気はときに「緩慢なる自殺」だともいわれます。それはたしかに、ひとつの傾向を言い当てているでしょう。食事を制限したり、排出したりして、どんどん瘦せていく、あるいは、瘦せすぎで居続けようとする場合はもとより、たとえ瘦せていなくても、嘔吐や下剤への依存がひどい場合などは、自ら死に近づこうとしているように見えてもおかしくはありません。しかし、こんな見方もできます。
瘦せ姫は「死なない」ために、病んでいるのではないかと。今すぐにでも死んでしまいたいほど、つらい状況のなかで、なんとか生き延びるために「瘦せること」を選んでいる、というところもあると思うのです。
(「まえがき」より)